丘の上の本屋さん

Civitella del Tronto 映画

「丘の上の本屋さん」は2023年3月に公開されたイタリアの映画である。Civitella del Trontoという美しい村で、古本屋の老店主のリベロと店を訪れる人々とのやり取りで物語は進む。リベロの本屋さんと隣のカフェのテラス席がある丘の上の通りが本当に美しい。物語のほとんどは本屋さんの店内と通りだけで描かれる。ときどき公園や村の路地も出てくるが、すべてはこの美しい村の中のリベロの生活圏で描かれる。登場人物も誰もが素直でこの村の一部として物語の世界観を形作る役割が与えられていて、観る者を不安を感じさせることなくこの世界に招き入れてくれる。

美しい村の中で、リベロと周囲の人たちの間にはゆっくりとのどかな時間が流れている。毎日変わらず同じ日常が続きそうにも思えるその村にあっても変化はみられるし影響もうける。探す本が見つからない客にリベロはネットで探せばすぐに見つかると答えもする。そして、移民の子供のエシエンにリベロは本を貸し、会話し、学びを授けていく。はじめはマンガに始まって少しずつ難度が高い本を貸すようになり、エシエンは学び成長していく。リベロの手元にある古い日記の主は苦悩しながらも意を決して新天地に踏み出していく。隣のカフェで働くニコラも常連のキアラと関係を深めていく。リベロは彼らを支え見守る。リベロの周囲のそれぞれが未来に向かって幸せになろうとゆるやかに変化していく。リベロはというと変化を否定も肯定もせず受け入れているのだろう。物語の終盤には苦しそうな表情がみられるようになり、エシエンに最後の本を渡す。まもなくエシエンがリベロを訪ねた時、閉ざされた本屋さんのドアの前でリベロからの最後の手紙をニコラから受け取るのだ。

エシエンはきっとリベロから授かった学びを糧に人生を切り開いていくのだろう。ニコラもきっと人生のカーブを素直に歩いていくのだろう。日記の主も新天地で新たな生活を始めただろう。本屋さんに掲げられていた「持ち主が変わり、新たな視線に触れるたび、本は力を得る」の言葉のように、リベロの周囲の人たちは彼を通じて学んだことを人に伝えていくだろう。

映画を見た後でこの言葉を思い出し、自分もこの映画のことを誰かに伝えければならないという気になった。そう思えたことで自分も美しい村の丘の上の本屋さんに並ぶカフェのテラス席でコーヒーを飲みながらリベロたちの日常を眺める一人になれたような気がした。

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